そこには一人の女が、道ばたで羊を飼っている。毅がふしぎに思ってよく見ると、ことのほか美しい。 (略)
「あなたが羊を飼っておられるのは、いったいなんにするためですか。神さまが殺して召しあがるのでしょうか」
とたずねると、女は答えた。
「羊ではありませぬ。雨を降らせる神ですわ」
「雨を降らせる神とはどんなものですか」
「雷獣の仲間です」
毅がふりかえって見ると、みな目を光らせ、力強い足どりをしていて、水を飲み草を食べるようすも羊とはずいぶん違っている。だが大きさや毛なみ、角などは、羊と変りがなかった。
中国唐代の小説を集めた「唐代伝奇集」の中の一編、李朝威の「柳毅の物語(柳毅伝)」から。この羊似の怪「雨工」については、前に「妖魅変成夜話」で少しご紹介しています。