家畜がより人々の生活に近かった時代の反映として、マザーグースにはいろいろな動物が登場する。その代表の一つとして、羊をとり上げることにしよう。 (中略) 中世以来の英国では、羊毛を原料とする織物工業が大切な産業であった。まず、「Baa,Baa,Black sheep」である。
Baa,Baa,Black sheep, めえー、めえー、黒羊さん、
Have you any wool? Yas,sir,yes,sir, 羊毛はありますか? ありますとも、ありますとも、
Three bags full; 三つの袋にいっぱいね、
One for the master, 一つはご主人様のため、
And one for the dame, そして一つは奥様のため、
And one for the little boy それから一つは路地に住む
Who lives down the lane. 男の子のため。
渡辺茂 訳
(中略)
この唄の背後には、1275年に課せられた輸出税に対する反抗があるという。税額は高く、「master」は国王、「dame」は貴族階級。これで三分の二をとられることになる。そして三分の一が庶民を意味する「the little boy」に残されたのだそうである。 (中略) これは、アメリカの子供たちが「ABCDEFG」を歌うのと同じメロディーで歌われる。 (中略) また、鳥山淳子氏は、 「映画の中のマザーグース」の中で、「風と共に去りぬ」の題名がこの「Gone with the Wind」に決まる前には24個の候補があり、その中には「Baa,Baa,Black Sheep」もあったという興味深いエピソードを紹介しておられる。 (中略) 黒い羊は数としては多いものではなく、ふつうの羊100匹に対し一匹くらいしか生まれないものだといわれている。この数の少なさのためか、「ブラック・シープ」という表現は、「除け者」や「問題児」としても使われる。
(中略)
日本でも有名な「オズの魔法使い」の著者フランク・ボーム(L.Frank Baum)は、(中略)Mother Goose in Prose という本を書いている。韻文の詩からヒントを得て、散文でストーリーを書いたのだ。「ザ・ブラック・シープ」では、ここに登場する黒羊は、いじわるなどでは全くない。オーバーを買えない貧しい少年のために、一生懸命に草を食べ、日光浴をして毛をたくさんつけようとする。黒羊の主人が必要としているのは一つの羊につき二袋。もう一袋分余計にとれたら少年にあげてほしいという申し出を主人は快く承知し、結果はそうなるという話である。
以前、虹色羊問題としてご紹介したマザーグースの「バァ、バァ、ブラックシープ」について、いろいろ。除け者かぁ。あ、でも、swatchの黒羊はこっそりと楽しそうなので、良しです。