プトレマイオスの天文学著作集

ひつじ話

プトレマイオス プトレマイオス(部分)
コンスタンティノープル、813─820年
羊皮紙、95葉
28×20センチ
ヴァチカン図書館
(略)
この写本は、2世紀中頃アレクサンドリアで活躍した、ギリシャの天文学者、地理学者クラウデオス・プトレマイオスの天文学書を編集した、250年頃の写本に基づいて制作されたのである。

「ヴァチカン美術館特別展 古代ギリシャからルネッサンス、バロックまで」

9世紀の写本の挿絵です。中央の太陽神を、時間と12ヶ月の擬人像、さらに黄道十二宮が取り巻いています。
これまでにご紹介している十二宮関係の記事は、こちらで。

記事を読む   プトレマイオスの天文学著作集

カーレン・ブリクセン 「指輪」

ひつじ話

美しい七月の朝だった。
空には軽いひつじ雲が漂い、大気は甘い香りに満ちている。
リーセは白いモスリン・ドレスとイタリア製の大きな麦藁帽という装い。
夫妻は庭を曲がりくねっているロマンチックな小道をたどった。
それは野道になって、牧場を越え、高い木立ちを抜け、小川を越え、小さな森の脇を通って羊囲いまで続いている。
シギスムンは今日、リーセに羊を見せることになっていた。
だから彼女も、今回にかぎって白い小型犬のビジュを家に置いてきた。
子羊に吠えついたり、牧羊犬と喧嘩になるといけないから。
荘園の羊は特にシギスムンの自慢の種だった。
彼はメクレンブルクとイングランドで羊の飼育を学んだことがあり、自分のデンマーク種の羊を品種改良するため、コッツウォルド種やドイツ種の雄羊を持ち帰っていた。
その計画には大きな可能性と幾多の困難が待ち受けていることを、道々妻に説いて聞かせた。
妻は思った。「何て賢いこと! いろんなことを知っているわ!」それと同時に考えた。
「羊といると、小僧っ子じゃないの! 赤ちゃんよ! わたしのほうが百歳年上だわ」

カーレン・ブリクセンの短篇集『運命綺譚』より、「指輪」の冒頭部です。幸福な新妻と、羊泥棒によって象徴されるこの世の罪業や悲哀との邂逅。

記事を読む   カーレン・ブリクセン 「指輪」

ペルセポリスの羊頭の装飾品

ひつじ話

装飾品
宮廷に使えた職人たちは美しい装飾品を作り出した。
羊の頭をかたどった装飾品は、職杖などに使われたと思われる。

 「ナショナルジオグラフィック日本版2008年8月号」 

イランのペルセポリス出土の装飾品です。

記事を読む   ペルセポリスの羊頭の装飾品

オデュッセウスの描かれたクラテル

ひつじ話

牡羊の腹にしがみつくオデュッセウス
サッフォーの画家、クラーテル、BC500年頃
牡羊と共に食人鬼から逃れるオデュッセウス神話にも、犠牲と死との邂逅およびそれからの脱出が凝縮された形で見られる。
古層の伝承では逃亡は犠牲にされた牡羊の皮に潜り込んでなされたのだった。

ヴァルター・ブルケルトの「ホモ・ネカーンス」に、オデュッセウス神話の考察にからんで、オデュッセウスがキュクロープスから逃れる場面が描かれたクラテルの写真が添えられていました。
羊の描かれたクラテルは、少しだけご紹介したことがあります。こちらでぜひ。

記事を読む   オデュッセウスの描かれたクラテル

新入生はヒツジ

ひつじ事件

フランス西部サンナゼール(Saint-Nazaire)のジュール・シモン(Jules Simon)小学校で7日、同校に通う生徒たちと保護者らが、黒ヒツジの「バンサン・P(Vincent P.)」を「287人目」の生徒として「登録」した。
ジュール・シモン小学校では、生徒数が1人足りないとして地元教育当局が12学級のうち1学級を閉鎖。
これに抗議した保護者らが学校の占拠を続けている。
仏ウェサン(Ouessant)島生まれの小型黒毛羊のバンサン・Pの名は、バンサン・ペイヨン(Vincent Peillon)仏国民教育相から名付けられたという。

フランスで、ヒツジ関係の騒動が起きているようです。もう少し詳細が知りたいところですね。なぜヒツジなのかとか。続報があると良いのですが。

記事を読む   新入生はヒツジ

カプセルラ・アフリカーナ

ひつじ話

カプセルラ・アフリカーナ
5世紀末─6世紀初頭

縦16.3センチ/横7.5センチ/高10.7センチ
ヴァチカン図書館(宗教美術館)
(略)
打ち出し技法および彫銀技法による、この聖遺物匣は1884年に、アルジェリアの初期キリスト教時代の教会堂遺跡で発見されたために、「アフリカの小匣」と呼ばれているのである。
その制作地については、北アフリカ説と北イタリア説が提唱されている。

「ヴァチカン美術館特別展 古代ギリシャからルネッサンス、バロックまで」

初期キリスト教の銀器です。側面に、十字架を背負った神の子羊が。
「神の子羊」モチーフ関係の記事はこちらで、初期キリスト教美術関連はこちらでぜひ。

記事を読む   カプセルラ・アフリカーナ

アルベルト・カイプ 「平原の眺め」

ひつじ話

「平原の眺め」

「ダリッチ美術館所蔵 ルーベンスとバロック絵画の巨匠たち」展カタログ

17世紀オランダのアルベルト・カイプによる「平原の眺め」です。

記事を読む   アルベルト・カイ ...

「スウィーティのあたらしいふく」

ひつじグッズ

「スウィーティのあたらしいふく」表紙
「あ、ちょうちょうさん、まって。」
スウィーティは、ちょうちょうを おいかけました。
しっぽの さきが、いばらに ひっかかった ことに きづかずに。

 「スウィーティのあたらしいふく」 

エバ・オリビエ作、ジェンマ・サレス絵、古藤ゆず文の絵本です。
着ている毛糸(!?)がほどけてはだかんぼになってしまった羊の女の子スウィーティ。農場の仲間たちの協力で、服を直そうとするのですが……?

記事を読む   「スウィーティのあたらしいふく」

ヒツジが自分で「オオカミが来た!」と知らせてくれるシステム

ひつじ事件

ヒツジを使い、差し迫るオオカミの脅威をテキストメッセージで羊飼いに通知するというのは非現実的に聞こえるかもしれない。しかし、1世紀ぶりにオオカミが出没し始めたスイスでは、すでに実験が始まっている。
前週実施されたスイスの牧草地での実験に協力した生物学者ジャンマルク・ランドリ(Jean-Marc Landry)氏は、「屋外でこのようなシステムが試されるのは今回が初めて」と語った。
スイス通信(ATS)によると、実験では約10頭のヒツジに心拍数モニターを装着。その後、口輪をつけた2頭のオオカミ犬にヒツジを追わせた。
結果、ヒツジの心拍数には大きな変化が現れた。この心拍数の変動を使えば、オオカミが嫌がる薬剤を吹き出す首輪を装着させ、さらに羊飼いにはテキストメッセージを送るシステムを考案できる可能性があることがわかった。
この装置は牧羊犬を導入できない小規模なヒツジの群れのオーナーをターゲットにしている。さらに番犬が好まれない観光地でも使用することができる。
この首輪の試作品は秋には完成し、2013年にスイスとフランスで実験が予定されている。また、ノルウェーなどの国も興味を示しているという。

南アフリカの羊泥棒対策の記事を教えてくださったak様から、引き続いて、スイスでのオオカミ対策実験についてお知らせいただきました。ありがとうございます。
小規模な群れが対象とのことですが、とても有効そうですね。実用化されれば良いと思います。

記事を読む   ヒツジが自分で「 ...

チベット仏教のセテル儀礼

ひつじ話

セテル儀礼
[1] さきほどゲルの外側で待機していた羊を、B氏は香と水で清め始める。
(略)
[2] その間に僧侶は読経する。しばらくしてから、ザラム(リボン)の用意を命じる。5色が必要だという。
(略)
[3] 僧侶は今度は水を要求する。(略) 僧侶は、女性がもってきた水の入った椀の中に、ゆっくりと米粒を入れる。度胸は続く。
[4] しばらくしてから僧侶は、羊をゲルの中に連れてくるようにB氏に命じる。それを聞いて女性は、すぐ小さな絨毯をすばやく僧侶の近くに敷いた。B氏はゲルの外で待機していた羊を、ゲルの中に連れて入ってくる。そこで、僧侶はさらに、バターを要求する。僧侶はまず、ザラムを羊の首に結びつける。それから女性がもってきたバターを、羊の額、鼻、両耳、四肢、背中、尾まで塗っておくように、B氏に命じる。
(略)
[5] 「では、これで、いい」と僧侶は言う。読経は終了した。「このセテルに名前をあげよう。立派な名前を」と僧侶は言う。そこで、B氏は、前から用意していたかのように、即答する。「では、バヤンサンという名前にしましょう」。僧侶は答える。「よし、バヤンサンとしよう」。それから僧侶は祈る。「バヤンサンという白いセテルは、多くのケシゲを呼び寄せるように」。

ずいぶん以前にお話したことのある、チベット仏教系の牧畜地域で行われる家畜の聖別儀礼「セテル」について、「人と動物、駆け引きの民族誌」に式次第が報告されていました。
家庭に不幸があったときなどに任意に行なうもので、セテルすることでケシゲ(福)を呼べるのだそうです。日本人でいうと、厄年に氏神様でお祓いをするような感覚でしょうか?
ちなみにバヤンサンは、その後普通に群れに戻されたようです。売ったり屠ったりしないのはもちろんですが、ペットにするわけでもないのですね。

記事を読む   チベット仏教のセテル儀礼

デューラー『黙示録』より「子羊のような二本の角を持つ獣」

ひつじ話

「二本の角を持つ獣」

 「ドイツルネサンス版画の最高峰 デューラー版画展」カタログ 

アルブレヒト・デューラーの木版画シリーズ『黙示録』より、「子羊のような二本の角を持つ獣」です。
「ヨハネの黙示録」第十三章にある、「わたしはまた、ほかの獣が地から上って来るのを見た。それには子羊のような角が二つあって、龍のように物を言った」のくだりを描いたものかと。
これまでにご紹介しているデューラーは、こちらで。

記事を読む   デューラー『黙示 ...

羊毛めんどり(続き)

ひつじ話

羊毛めんどり
《羊毛の皮を着た雌鳥》、マンデヴィル

先日お話した「中世の妖怪、悪魔、奇跡」に、以前、ジョン・アシュトンの「奇怪動物百科」をご紹介したときに触れた「羊毛めんどり」の絵がおさめられていましたので、あらためて。

記事を読む   羊毛めんどり(続き)

人狼譚としての「迷い羊」

ひつじ話

カナダではほかに「迷い羊」が好んで人狼譚として語られる。
夜遅く家路を急いでいると羊が一頭道ばたにはぐれている。
そのあたりの農園の羊が迷ってしまったのだろうが、このままでは狼の餌食になる。
かついでいって、あしたになったら近所の家で心当たりがないかどうか聞いてみよう。
そこで肩にかついでゆくと、はじめは軽かったのがだんだん重くなる。
やがて家がすぐそこというところまで来ると、かついでもらってありがとうといって逃げてゆく。
近くの農園の男が羊に化けて「ただ乗り」をしたのだ。

人狼にかかわる伝承を大量におさめた「人狼変身譚」に、なんだか愉快なお話が混じってました。
人狼というか、おんぶおばけというか、しかも正体はご近所さんって……ありがとうって……。

記事を読む   人狼譚としての「迷い羊」

レオン・フレデリック 「アッシジの聖フランチェスコ」

ひつじ話

「アッシジの聖フランチェスコ」 「アッシジの聖フランチェスコ」(部分)
アッシジの聖フランチェスコは、フレデリックが生涯繰り返し描いたテーマである。
(略)
描かれている自然は、イタリアのアッシジではなく、フレデリックが生涯愛した、ベルギー南部ワロニーのアルデンヌ地方の風景と考えられている。

何の気なしに岐阜県美術館の「象徴派」展を訪れてみると、羊の絵と遭遇してしまいましたので、泡を食ってご報告です。
レオン・フレデリックによる「アッシジの聖フランチェスコ」、姫路市立美術館所蔵。
2012年8月26日までの開催です。あさってでおしまいなのですが、ご縁がおありでしたら、ぜひ。
岐阜県美術館のあとは、2012年9月8日?10月21日の期間に新潟県立近代美術館、2012年11月3日?12月16日は姫路市立美術館を巡回するようです。
なお、聖フランチェスコを描いたものは、以前、フランシスコ・リバルタの「奏楽の天使に慰められる聖フランチェスコ」をご紹介したことがあります。

記事を読む   レオン・フレデリ ...

ピロストラトス 「英雄が語るトロイア戦争」

ひつじ話

大アイアスの霊のこと
家畜の群れに生じる災害は全てアイアスが原因だと人々は言っています。
たぶん彼の狂気に関する話のせいでしょう。
彼は家畜たちに襲いかかって略奪し、あたかも武器の裁定のことでギリシア人たちを殺害しようとするような振舞いに及んだわけですから。
また彼の墓の周りで放牧する者もいません。
そこに生え出る草は有害で、家畜を養うのにはよくないということで、その草を恐れているのです。
こんな話があります。
トロイアの羊飼いたちが、家畜に病が生じたとき、アイアスを侮辱するため墓の周りに立って、この英雄はヘクトルの敵だ、トロイアとその家畜の敵だと叫び、ある者は、彼は狂人だったと、またある者は、今でも狂っていると口走りました。
さらに別のいちばん不敵な羊飼いが、彼に向かって叙事詩の句を
 アイアスはもうとどまらなかった
という箇所までそらんじて、彼を臆病者とそしったところ、墓の中から彼が、
 いや、俺はとどまった
と、恐ろしいはっきりした声で叫び返したのです。

3世紀のギリシア人ピロストラトスによる、トロイア戦争で死んだ英雄がよみがえって戦の真相を語る物語「英雄が語るトロイア戦争」から、以前、ソポクレスの悲劇「アイアス」でお話した大アイアスにまつわる一章を。

記事を読む   ピロストラトス  ...

PAGE TOP