「モンタイユー」

ひつじ話

ピエールもその仲間も、たえず長旅をしていて、妻子も家も持たない。
動産(貨幣・羊群……)については、比較的に豊かであるが、多くの家財を買いためるわけにいかない。
足手まといの財産も定住者なら身辺に集めるが、羊飼いは移動しなければならないから限度がある。
ピエールはいつも「ものを持ち運びできるぎりぎりの範囲で」動いており、品物を集めず、むしろわずかを望むだけで、自分の欲望なり「消費志向」を他の形の「豊かさ」─これが家庭の代用となる─に変える道を選んだ。
すなわち、高原の放牧場や居酒屋での愛人とのかりそめの出会い、生れながらの兄弟や義兄弟、あい親、純粋の友情、仲間の結成に基づくゆたかな人間関係の網が心をたのしませる。
完全に心を開いて運命を受け入れた─そもそも、これが恩寵の定義ではなかっただろうか─からこそ成立つ、このような生活様式は善き羊飼いの気にいっている。
運命とは、目的地である。
彼にとって、自由とは羊のことなのだ。
(略)
この自由とは、気が向けば、異端審問が衣服に縫いつけさせた黄色の十字架を、高地の斜面の藪に投げ捨てることでもある。
ピエールには閑暇があるし、時には持場も離れる。
病気、寒気、苦しい旅など、みじめな日常を理想視するわけにはゆかないが、しかし羊群にも、自分や仲間にも、いつでも食物は見つかる。
乳、肉、チーズなど、蛋白質が不足することはない。

多くのカタリ派帰依者を出し、異端審問の悲劇を味わった、14世紀ピレネーの小村モンタイユー。しかしながらその審問記録は、過剰なほど尋問を重視した異端審問官ジャック・フルニエによって、結果的に社会史の貴重な史料ともなりました。
引用は、異端として記録に残されたモンタイユーの人々のうち、羊飼いのピエール・モリの生活を語る「羊飼いの気質」の章から。魅力的な人物とその人生観は、本書のなかで、ある種の救いとして描かれているように思われます。

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シャルル=エミール・ジャック 「羊に水を飲ませる羊飼いの女」

ひつじ話

「羊に水を飲ませる羊飼いの女」

 「ドラクロワからムンクまで 19世紀ヨーロッパ絵画の視点」 

シャルル=エミール・ジャックの「羊に水を飲ませる羊飼いの女」を。ボストン美術館所蔵。
これまでのジャックはこちらで。かぶってません……よね?

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セガンティーニ 「11月の寒い日」

ひつじ話

「11月の寒い日」
セガンティーニの初期の絵画は、しばしばフランスの画家、ジャン=フランソワ・ミレー(1814─75)の作品と比較される。
しかしながら、ミレーは、農民たちの苦労の多い日常生活をより無愛想に記録し、自らの作品を社会批判と結びつけようとした。
(略)
しかしミレーとは異なって、セガンティーニは、物語的(ナラティヴ)な和やかさを保っていて、その描写によって同情的な感情よりも哀愁の感情を呼び起こしている。

 「アルプスの画家 セガンティーニ ─光と山─」展カタログ 

19世紀イタリア、ジョヴァンニ・セガンティーニの「11月の寒い日」を。これまでにご紹介したセガンティーニはこちらで。
ミレーのこれまで分も、ご参考にこちらでぜひ。

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「チャールズ・アダムスのマザー・グース」

ひつじグッズ

「チャールズ・アダムスのマザー・グース」
夕焼け空のほう、羊飼いの好天予報
朝焼け空のほう、羊飼いの悪天警報
チャールズはこの絵を1967年に出版されたマザー・グース絵本(本書の初版)のために描いた。
しかし、なぜかはわからないが、この作品は最終段階で割愛されることになった。

チャールズ・アダムスによるマザー・グース絵本から。
「Red sky at night, Shepherd’s delight; Red sky in the morning, Shepherd’s warning.」というマザー・グースのフレーズに、1967年のアメリカが直面していた状況を思わせる、ブラックな解釈が加えられています。

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フランソワ・ブーシェ 「水飼い場」

ひつじ話

「水飼い場」

 「ブーシェ、フラゴナール展」カタログ 

フランソワ・ブーシェの「水飼い場」です。
これまでのブーシェはこちらで。

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景泰藍の羊形尊

ひつじ話

羊形尊
羊形尊 12.7センチ

七宝焼きに似た中国の工芸品、景泰藍の器です。明の景泰帝の頃に最盛期を迎えたことから、作品の時代を問わずこのように呼ばれるとのこと。

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敦煌出土仏伝図断片(諸獣誕生)

ひつじ話

諸獣誕生
絹本着色
上部 縦18.0 横19.0  下部 縦24.0 横20.0
中唐?晩唐
大英博物館
悉達多太子が誕生した日に五百の諸獣が同時に誕生した物語を表す仏伝図幡の断片である。
この主題を表す作例としては、第十七窟(蔵経洞)将来の作品中、唯一のものである。

 「砂漠の美術館─永遠なる敦煌」展カタログ 

敦煌莫高窟の出土品です。上段に羊の母子が。

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UCHUの落雁 と 野仏庵の狛羊

ひつじグッズ

ひつじnews、このたび京都をさまよってまいりました。
目的はまずこちら、堀川今出川にある和菓子店「UCHU」。
堀川今出川の交差点北西角から北に数分。山名宗全邸址を示す石柱が立つ角を曲がると、ふわりとお店が目に入ってきます。
山名宗全邸址 
UCHU店頭
愛らしい色味とデザインの落雁専門店なのですが、その商品のひとつである「アニマル」があまりにかわいいので、お店まで買いに来てしまいました。
「アニマル」デザインのオリジナルてぬぐいと、観光客らしく「京都ものがたり」も購入。ほくほくです。
成果。

UCHU wagashi
営業日 | 金・土・日 営業時間 | Open 10:00 Close 6:00pm

UCHUの落雁については、カーター卿さんに教えていただきました。ありがとうございます。
さて。
せっかくここまで来たんですから、もうひとつ京都にしかいないひつじを見に行きましょう。
堀川今出川交差点から、まっすぐ東へ進み(調子に乗って、30分ほど歩いてしまいました。寒うございました。皆様はぜひバスかタクシーをご利用ください)、大文字山を眺めつつ、出町柳駅から叡山電車に乗り込んで、一乗寺駅下車。駅からまた東に向かって20分ほど歩きます(いえ、他の移動方法もあるとは思うんですが、つい……)。
やってきたのは、観光名所として知られる詩仙堂そばの「野仏庵」。
野仏庵

野仏庵には「陶庵席」「雨月席」「幽扉席」などの茶席の他、
百数体に及ぶ数多くの石仏が安置されております。
また、庵の正門は明治・大正・昭和の元老公爵 西園寺公望 が、
国事奔走中の維新の前夜に新撰組に追われ、
一時京都府下の丹波須知村に潜んだ際の寓居の門を移設したものです。

公式HPの施設案内にあるこの正門前に狛犬然として並ぶ二体の羊の石彫を、以前から見たいと思っていたのです。
よく似たものを、以前、東京の根津美術館庭園でも見たことがあるのですが、こちらは立ってる位置が位置だけに、現役感がありますね。
野仏庵正門
さいわい一般公開日でしたので(弁柄の壁が美しい母屋でお抹茶がいただけます。500円。ほっとしますよ)、門の中に入って、後ろ姿の写真も一枚。
後ろ姿
さらにアップも。
横顔
いや、堪能しました。
ご縁がありましたら、ぜひぜひ。

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アントニオ・マリネッティ 「少年と羊」

ひつじ話

「少年と羊」

全国六都市を巡回中の「世界遺産ヴェネツィア展」を見に出かけたところ、思わぬ羊に出会ってしまいましたので、ご注進です。18世紀、アントニオ・マリネッティによる「少年と羊」、コッレール美術館所蔵。
こちらの展覧会は、このあと、2012年3月4日(日)まで名古屋市博物館、3月17日(土)?5月13日(日)宮城県美術館、5月26日(土)?7月16日(月・祝)愛媛県美術館、7月28日(土)?9月23日(日)京都文化博物館、10月6日(土)?11月25日(日)広島県立美術館を巡回するようです。

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牧羊うさぎ走る。

ひつじ画像・映像


もりもとさんから、you tubeで見られる牧羊うさぎの映像を教えていただきました。ありがとうございます。
こんなにかわいいウサギに追いかけられて、ちゃんと羊が怖がってるところが、不思議というか、すごいというか。がんばってます。

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ディルク・ファン・ベルヘン 「農家の生活」

ひつじ話

「農家の生活」 「農家の生活」(部分)

 「オランダ絵画─栄光の17世紀」展カタログ 

17世紀のオランダ、ハールレムの風景・動物画家ディルク・ファン・ベルヘンの「農家の生活」です。牛や馬、山羊などとともに、手前に羊も。シュベリン国立美術館所蔵。

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ツツジと羊と羊躑躅

ひつじ話

植物名の多くを中国から借用している事実があるにもかかわらず、万葉植物の考証過程で中国本草学の記述は詳細に検討されることはなく、とりわけ近代の考証家にその傾向は著しい。
古代日本が邦産植物に漢名を充てようとしたのは、東アジア文化圏において漢名が現在の学名(ラテン名)に相当する機能をもっていたからにほかならない。
(略)
『本草経集注』(陶弘景)にある「花苗、鹿葱に似て、羊其の葉を誤食すれば、躑躅(てきちょく)して死す。故に以て名と為す」という記述はきわめて有力な情報を与えてくれる。
躑躅(てきちょく)は「たちもとおる、ゆきもどりつする」という意味であるから、羊が葉を食べると、足が麻痺、萎えて竦むことを示唆し、羊躑躅という名もこれに由来するというのである。
(略)
中国では躑躅花は羊躑躅(トウレンゲツツジ)の花であり、(略)邦産ツツジ類で躑躅花の代用となり得るのは、トウレンゲツツジの変種であり、形態が酷似して有毒であるレンゲツツジをおいてほかはない。
(略)
ツツジのすべてに毒性があるわけでなく、ほとんど無毒のツツジも少なからずあり、中には山菜のように消費されるものがある。
(略)
ツツジの花冠を食べる習慣がかなり古くから始まったことを示唆する間接的な証拠なら、室町時代に成立した『塵添壒嚢鈔』巻九に見ることができる。
それによれば、「羊ノ性ハ至孝行ナレハ此花ノ赤キ莟(つぼみ)ヲ見テ母ノ乳ト思テ躑躅シテ膝ヲ折リテ之ヲ飲ム故ニ云」とあり、これは羊躑躅の語源を説明したものであるが、「赤キ莟」とあるから花冠は赤色であり、また中毒を起こすとは一言も触れていないから、レンゲツツジのことでないことは明らかである。
この『陶景注』と似て非なる語源説は、赤い花冠のツツジすなわちヤマツツジやサツキを食べても安全であることをいわんとしているように見え、漢籍の記述を大きく変質させていることから、日本で発生した俗話であることはまちがいない。
現在の日本では、躑躅は広くツツジ科ツツジ属種を表すが、中国ではトウレンゲツツジとその近縁種だけを指し、そのほかのツツジにこの字を用いることはない。
有毒なツツジ類とそうでないのを区別しているからであろう。

「一休、あて字を訓み給ふ事」モチツツジと羊の関係「和漢三才図会」などをご紹介しつつもいまひとつすっきりしない、「躑躅」の語源のお話をもう少し。万葉植物の考証事典に混乱の原因について明快な説明がありましたので、引用を。

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シャルル=エミール・ジャック 「森の中の羊飼いと羊の群れ」(山寺後藤美術館)

ひつじ話

「森の中の羊飼いと羊の群れ」 「森の中の羊飼いと羊の群れ」(部分)

 「山寺後藤美術館所蔵 ヨーロッパ絵画名作展」 

これまで数多くご紹介しているシャルル=エミール・ジャックをもうひとつ。
ジャックの羊は姿かたちに愛嬌があって大好きなのですが、構図タイトルが似過ぎていて、ご紹介済みかもしれないと毎回不安になるのがいかんともしがたい感じです。

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ベルフィン ファームアニマルズ

ひつじグッズ

街まで買い物に出てみれば、世間ではバレンタインの準備が始まっていることを知って驚いたりする今日このごろです。あと三週間もありますよ? ほんとに?
というわけで、カルディコーヒーファームの店頭でかわいい羊のチョコレートを見かけたので、買ってまいりました。
ベルフィン ファームアニマルズ
通販でも買えるようなのですが、

ベルフィン ファームアニマルズ

牛、豚、羊の三種があって、種類を指定できないみたいです。そんなぁ。

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『ジャータカ』より「羊問答」

ひつじ話

羊と犬は、
「さて、われわれはどうして生きていったらよいものか」
と生きるすべを考えた。そして、羊が言った。
「もしわれわれが協力して暮らしていければ、いい考えがあるよ」
「それを話してみてよ」
「お友だちさん、きみはこれから象小屋へ行きなさいよ。
『犬は草なんか食べない』と[思って]象番はきみに疑いをかけることはないだろう。
きみはぼくが[食べる]草をもってくる。
ぼくは[王の]台所へ入って行く。
『羊は肉なんか食べない』と[たかをくくって]、料理番はぼくを疑わない。
ぼくはきみが[食べる]肉をもってこよう」
(略)
王はかれらがなかよくしているのを見て、考えた。
「ああ、わしは、いままで見たことのない光景を見てしまった。
羊と犬はたがいに敵であるのに、なかよく暮らしている。
このことを取りあげて難問とし、賢者たちにたずねてみよう。
この難問を解けなければ国外追放としよう。

仏教の本生譚『ジャータカ』の「大トンネル前生物語」より、「羊問答」を。
世尊の前世である賢者マホーサダが仕える王様がもちだす、理不尽な難問のひとつです。

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