ダン・シモンズ 「ハイペリオンの没落」

ひつじ話

数分後、ハントは土の山のそばに立ち、ショベルを手にして、墓穴の底のリネンにつつまれた小柄なかたまりを見おろしながら、なにかいうべきことを見つけようとした。
国の関係する葬儀には何度となく出席したことがあるし、グラッドストーンのために弔辞を代筆するのはお手のものとあって、ハントはこれまで、悔やみのことばに詰まったためしがない。
だが、こんどばかりは、なにも頭に浮かんでこなかった。
唯一の聴き手は、依然としてイトスギの影に佇立する無言のシュライクと、鈴の音を鳴らしながらおどおどと怪物から遠ざかり、遅参した参列者のように墓に近づいてくる羊たちだけだ。

ジョン・キーツ、ではなくて、キーツの詩や関係する人物、事物を大きく作品に取り入れたダン・シモンズのSF、「ハイペリオン」シリーズの二作目です。物語終盤、この世界のターミネーター的怪物であるシュライクに見張られながら、重要な登場人物が葬られる場面。

記事を読む   ダン・シモンズ  ...

アルフォンス・オスベール 「幻視」

ひつじ話

「幻視」
神のお告げにより突如フランス救国の騎士となったジャンヌ・ダルクかと思うが、1899年には作者自身が、これは聖ジュヌヴィエーヴであるとしている。
聖ジュヌヴィエーヴは、パリの守護聖人であり、パンテオンにはオスベールが大いに感化されたピュヴィス・ド・シャヴァンヌの《パリの町を見守る聖ジュヌヴィエーヴ》の壁画があるから、羊の番をしているときに神のお告げを聞くという設定はジャンヌ・ダルクのほうにふさわしいにもかかわらず、作者はあえてこれを聖ジュヌヴィエーヴとしたかったらしい。

19世紀末フランス、アルフォンス・オスベールの「幻視」です。オルセー美術館蔵。
解説文にあるピュヴィス・ド・シャヴァンヌについては、こちらで。

記事を読む   アルフォンス・オ ...

アゼルバイジャン出土の黒陶羊頭文水注

ひつじ話

黒陶羊頭文水注
前4?3世紀 ミンゲチャウル出土 アゼルバイジャン歴史博物館 高29.0?
非常に抽象化された、おそらく羊の頭部と思える文様が、表裏二面に浮彫風に配されている。
左右相称の巻き込んだ角と丸い目のみが表現対象となっているが、古代人にとってはこの二つの要素のみで羊の角の持つ威嚇力が表現できると判断されたことがうかがえる。

アゼルバイジャン出土の陶器を。

記事を読む   アゼルバイジャン ...

「朝びらき丸 東の海へ」

ひつじ話

よくよくそばによって見ると、なんとそれは一ぴきの子ヒツジでした。
「さあ、朝ごはんをおあがりなさい。」とその子ヒツジが、やさしいやわらかい声でいいました。
その時三人がはじめて気がついたのですが、草地の上に焚火があり、それで魚をやいていたのです。
三人はそこにすわって、魚を食べましたが、いく日ぶりかで、はじめておなかがすいてきたのでした。
そしてそれはいままでに食べたことがないほどにおいしい味でした。
「子ヒツジさん、教えてくださいな。」とルーシィがたずねました。
「ここは、アスランの国へいく道ですか?」

C・S・ルイス『ナルニア国物語』より、「朝びらき丸 東の海へ」を。
物語の終わり近く、冒険の旅を乗り越えた少年少女たちを出迎えたものは、子羊の姿をとったアスランでした。偉大なライオンとして人々の前に現れ続けてきたアスランの正体が暗示される場面です。

記事を読む   「朝びらき丸 東の海へ」

ワーズワース 「マイケル」

ひつじ話

マイケルは厳しい頑固な心をもちながら、
幼い息子を眼の届く所に置きたかった。
それは畑で働らいている時とか、大きな古い樫の下で、
縛った羊を前に寝かして牧羊者の腰掛に坐っているときだった。
この樫の木は彼の家の戸に近くただ一本立って、
比べもののないほどに蔭が濃いので、羊毛剪りが、
日除けのために選ぶ場所で、
それからこの地方の言葉で「剪り込の木」と云われ、
今もなおその名が残っている。

ウィリアム・ワーズワースの牧歌を。誠実で勤勉な羊飼いの家族愛を描く「マイケル」の一場面です。

記事を読む   ワーズワース 「マイケル」

赤絵十二支四神鏡文皿

ひつじ話

京都国立博物館で8月28日(日)まで開催中の
「百獣の楽園 ―美術にすむ動物たち」展
に行ってまいりました。
京都国立博物館入り口
応挙の龍! 芦雪の鹿!! 光琳の虎! 狙仙の猿! 若冲の犬! 暁斎の化け猫!
涙が出るほど豪華なラインナップなのに、意外にもほどよい客足で、ゆっくりじっくり見られます。
羊も、もちろんいました。いましたとも。
いちばん大きな扱いなのは、雪舟の「倣梁楷黄初平図(ほうりょうかいこうしょへいず)」でした。ミュージアムショップでグッズを買ってまいりましたので、その写真を下に。
倣梁楷黄初平図うちわ
他には、星曼荼羅仏涅槃図、明治になってから出来た非常にリアルな花卉鳥獣図巻、さらには十二類絵巻が展示されていました。ああ、これを現物で見る機会に恵まれようとは。
下の引用は、それらのひとつ、外縁を十二支がめぐっているお皿です。「随もしくは唐時代の中国の鏡から、意匠を借りて作られている」とのこと。

赤絵十二支四神鏡文皿 赤絵十二支四神鏡文皿(部分)
赤絵十二支四神鏡文皿 京焼 奥田頴川作 京都・大統院

「百獣の楽園 ―美術にすむ動物たち」展カタログ

記事を読む   赤絵十二支四神鏡文皿

ルーラント・サーフェレイ 「音楽で動物を魅了するオルフェウス」

ひつじ話

「音楽で動物を魅了するオルフェウス」 「音楽で動物を魅了するオルフェウス」(部分)

「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」カタログ

ルーラント・サーフェレイの「オルフェウス」です。左端にこっそり羊。
オルフェウスが竪琴で森の動物を魅了したという神話を使った(実質的な)動物画といえば、アントニオ・マリーア・ヴァッサッロのものをご紹介したことがあるのですが、思いのほか類例のあるモチーフなのでしょうか。
こちらの絵は、現在、豊田市美術館で開催中の「シュテーデル美術館所蔵 フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」で現物が見られます。8月28日(日)まで。暑い盛りではありますが、ご縁があればぜひ。

記事を読む   ルーラント・サー ...

「バルバルさん」

ひつじグッズ

「バルバルさん」
カラン カラン
つぎの おきゃくさんが やってきました。
「いらっしゃいませ」
みると、ひつじが もじもじしながら
ドアのところに たっています。

乾栄里子文、西村敏雄絵の絵本です。
床屋のバルバルさんのもとにやってくる、いっぷう変わったお客様たちとは……?

記事を読む   「バルバルさん」

ガンダーラの仏伝図 「通学」

ひつじ話

太子通学図
太子シッダールタは七歳になると、羊車に乗って学堂に通います。
(略)
通学の図としてはもっとも有名な美しいレリーフです。
いうまでもなく、羊車に乗るのは太子で、その後ろに比丘が合掌しています。その他の人物は学友でしょう。

ガンダーラ仏教美術の名品を。ブッダの生涯を浮彫にした仏伝図から、「通学」の図です。上図の他に、直接羊に乗っている浮彫が数点掲載されていました。馬じゃないんですね……。ヴィクトリア&アルバート博物館蔵。
仏伝図関係では、サーンチー仏教遺跡をご紹介しています。

記事を読む   ガンダーラの仏伝図 「通学」

イラン初期鉄器時代の羊頭形リュトン

ひつじ話

羊頭形リュトン
イラン ギーラーン
前一千年紀初頭
高17.5?
角杯をかたどった器体の先端に羊の頭部がつき、さかさまにしてリュトンとなる。
刻み目のある巻いた羊の角と、同心円の目が絶妙なバランスで貼り付けられ、小さくあいた口が、流出口となっている。

イラン出土のリュトンです。平山郁夫シルクロード美術館蔵。
これまでにご紹介しているリュトンは、こちらで。

記事を読む   イラン初期鉄器時 ...

ポンペイの脚置き

ひつじ話

脚置き 脚置き(部分)
青銅
高さ29.0?、幅35.0?、奥行25.0?

 「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」カタログ 

ポンペイ遺跡出土品を。脚置きとして使われただろうとのことで、上部に羊角をつけたゼウス=アモン神の装飾がほどこされています。ナポリ国立考古学博物館蔵。
古代ローマの装飾といえば、以前アモン神のおもりのついた竿秤を見たことがありました。神様の頭を使うなんてと思っていたのですが、意外に日常的なモチーフなのですね。
アモン(アメン、アンモン)については、まとめてこちらで。

記事を読む   ポンペイの脚置き

ロシア民話 「羊飼いの娘」

ひつじ話

ある時のこと、王様は猟に出かけました。
すると、野原で羊を飼っているひとりの素朴な田舎娘に出遇いました。
その娘の美しさといったら、話に聞いたこともなければ、絵で見たこともないような、世界中、どこを探したって見当たらないような、そんな美人でした。
王様は、さっそく近づいてゆくとやさしく話しかけました。
「こんにちは、美しい娘さん!」
「こんにちは、王様!」
「お前のお父さんはどんな人かね?」
「私の父さんは羊飼いで、この近くに住んでいます。」

「動物たちの冬ごもり」をご紹介している、アレクサンドル・アファナーシェフのロシア民話をもうひとつ。
もとは羊飼いだった、貞淑な王妃の忍耐力を試そうとする王様のお話……って、もしかして、これはペローの「グリゼリディス」の類話なのでは。

記事を読む   ロシア民話 「羊飼いの娘」

ジャン=バティスト・ナティエ 「アンゼリカとメドロ」

ひつじ話

「アンゼリカとメドロ」 「アンゼリカとメドロ」

 「天使と天女 天界からのメッセージ」展カタログ 

第十七歌をご紹介したことのある「狂えるオルランド」より、主人公オルランドが恋い慕う美姫アンゼリカが、恋人メドロの名を樹に彫り込む場面を描いた、18世紀フランス、ジャン=バティスト・ナティエによる「アンゼリカとメドロ」を。岡崎市美術博物館蔵です。

記事を読む   ジャン=バティス ...

「ひつじかい」

ひつじグッズ

「ひつじかい」
ひつじかいは ほしのあとに ついて いくことに きめました
ほしが すすんで いくとおりに ひつじと いっしょに あるいていくと……

暑いさなかですが、クリスマス絵本を。ヘルガ・アイヒンガー文・絵、佐久間彪訳「ひつじかい」です。

記事を読む   「ひつじかい」

PAGE TOP