ディコンはコリンが座っているソファのところまで行って、生まれたばかりの子ヒツジをコリンの膝にそっと置いた。
すると、この小さな生き物はすぐに温かいベルベットの部屋着に顔を押しつけ、鼻先を布地にぐいぐいすりよせ、巻き毛の頭でコリンのわきばらをそっとつっついて、何かねだるようなしぐさを見せた。
これで口をきかずにいられる少年など、いようはずがない。
「この子、何してるの?」コリンが声を出した。「何をほしがってるの?」
「母親を探してるんだよ」ディコンの顔に笑みが広がっていく。「おれ、わざと少しはらぺこにして連れてきたんだ。こいつがミルク飲むとこ、見たいだろうと思って」
ディコンはソファのかたわらに膝をつき、ポケットからミルクびんを取り出した。
フランシス・ホジソン・バーネットの「秘密の花園」から。
病弱な少年コリンのもとに、主人公のひとりメアリと野生児ディコンが、母羊を亡くしたばかりの子羊を連れてくる場面です。