堀田善衞 「スペイン断章」
この羊なのである、カスティーリア・レオン地方などの中央部高地(メセタ)スペインを形成したものは。
従ってそれはスペイン自体を形成した、と言っても、それはほんの少しの誇張ということで許容量のなかに含まれるであろう。
スペイン・カトリックが追い詰められて南征の根拠地とした北部は山だらけの、何も生んではくれぬ土地である。
しかも、その山地から南へ打って出ても、中部高原もまた、地味の痩せた農耕不適地である。
そこで、羊を主とする牧畜が可能なほとんど唯一の生業であった。
農耕は多くの人手を必要とするが、牧畜となれば、一人で数十、数百匹くらいはまかなえるであろう。
食べさせる草がなくなればあるところに移動して行けばよろしい。
かくて、この国の歴史に大きな刻印を残すことになるメスタという制度が出来上った。
メスタとは、いわば牧羊協同組合のようなものであるが、これに入れるのは貴紳だけであって、これが王室と結んで様々な特権をもっていた。
その特権中最大のものは、羊の群れの通行権である。
百姓は農地に垣をつくってはならなかった。羊のお通りの邪魔になるからである。
(略)
この羊の大群からとれるいわゆるメリノ羊毛が、王室の収入源中最大のものであった。
しかしそれも要するに他のヨーロッパ諸国に対する原料提供というにとどまり、羊毛産業自体が成長するのはずっと後になってからのことであった。
羊毛の密輸出は死をもって罰せられた。
この羊毛の最大のお得意先は、英国とフランスであった。
堀田善衞の「スペイン断章」の中に、以前お話したスペインの移牧について触れられた章がありましたので、ご紹介を。
メリノ種については、こちらをご参考にぜひ。
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