「ホビット ゆきてかえりし物語」

「村のやつらが、てめえとバートに食われてえようって、いつまでもぐずぐずしてると思ってんのけえ。山を下りてきてから、てめえらで村を一つ半もたいらげちまったじゃねえか。ゼータクゆうんじゃねえ! 山にいたときにゃ、しけてやがったからよう、こんなにけっこうけだらけなヒツジがあったら涙ながして、“あんがとよ、ビル”なんて言ったところだぜ」。
こう言うと、ウィリアムは、いま炙っているヒツジの足から大きな肉のかたまりを食いちぎり、袖で口をぬぐいました。
そう、たとえ頭が一人に一つっきりしかなくっても、トロルという連中はこのように大食いなのです。
すっかり立ち聞きしてしまったビルボは、なにか行動を起こすべきでした。
そうっと引き返して、すぐそこに、険悪な気分になったかなり大ぶりのトロルが三人もいて、ヒツジに飽きあきなので、炙りドワーフか、炙り子馬の肉なら、待ってましたとばかりに飛びつくだろうと仲間たちに知らせるか、さもなくば、押入のとっておきの早業をさっそくにひろうすべきところでした。

J.R.R.トールキン、山本史郎訳の「ホビット」から、主人公ビルボのはじめての冒険、第2章「ヒツジのあぶり肉」の場面を。

ひつじ話

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