『子不語』より、「地の果て」

保定(河北省)の督標守備の李昌明がにわかに死んだ。
(略)

「わしの魂は飄々と風のまにまに東南方へ向かった。
やがて天はようやく明るくなり、砂塵もやや収まった。東北隅を見下ろすと、黄河が一筋流れている。
河岸に牧羊のものが三人いる。羊の色は白く肥え太って馬のようだ。
わしは牧羊のものに、わが家はどの辺であろうか、と聞いてみたが、答えなかった。
それからまた行くこと数十里、遠くに宮殿がぼんやりと見えて来た。
瓦はみな黄色い瑠璃でできていて、帝王の居所さながらである。

近づいてみると、二人の男が靴、帽子、袍、帯などの装束をして殿外に立っている。
世間の芝居に出てくる高力士や童貫のような出で立ちであった。
殿堂の前には黄金の扁額があって「地窮宮」の三字が書いてあった。

(略)

やや明るくなって殿内の鐘が鳴ったときには、風も霜も収まっていた。
また一人のものが出て来て言った。
「昨夜留め置いたものは原籍の地に返せ」
わしは例の二人に連れられて出かけることになった。
元のところで牧羊者にまたも出会った。男たちはわしを彼らに引き渡した。
「命によりこの者をお前らにあずける。家に連れ戻せ。我らは帰るからな」

先日「廟中の怪」をご紹介した『子不語』から、もうひとつ。なんだか楽しそうな臨死体験です。


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